Learning to Play the Irish Music (アイリッシュ音楽の学び方)

このページでは、アイルランドに渡って現地でレッスンを受けたい方、また私からレッスンを受けてみようかなと思っている方の参考になればと思い、私が現地で受けたレッスンや、アイリッシュ音楽のグレードテスト、コンペティションや、私のレッスンの進め方などについて書き綴っています。

これまでに現地のグループレッスンや、個人レッスン、どちらも受けたことがあります。

グループレッスンは、クレアの州都エニスにある「Cois na hAbhna」という所で受けました。

 

ここはアイルランドの伝統文化の普及活動に努めている「Comhaltas Ceoltoiri Eireann (略してCCE)」が運営している施設です。

 

CCEは日本にも支部がある世界的な機関です。

工事中の写真ですが、6角形の形が特徴的な「Cois na hAbhna」です。ここでフィドルのレッスンを受けていました。
工事中の写真ですが、6角形の形が特徴的な「Cois na hAbhna」です。ここでフィドルのレッスンを受けていました。

週一回のレッスンで、9月に新しいターム(Term=新学年)が始まり、6月で終わるというサイクルの教室でした。

 

レッスン代は月謝制で、一ヶ月40ユーロでした。(一回あたり約1300円)

 

通っている生徒のほとんどは地元の子供達で、子供達にジロジロ見られながら、レッスンを受けていました。

 

先生は地元クレアの方で、クラシックの経験もある音大出の先生でした。

 

厳しい先生で、練習してこなかったり、言われたことをちゃんと出来なかったりするとキツい口調で叱ってくるので、怒られるのが怖くて、レッスンでやったことは次のレッスンまでに出来るように頑張って練習しました。

先生自身はクラシックの経験のある方でしたが、フィドルの時は楽譜は一切使わず「learn by ear」といって耳で聞いて学ぶやり方で教えていました。

 

レッスンの進め方は基本的に毎週新しい曲を習い、弓の使い方や、装飾音について教わり、最後に先生の模範演奏を録音して、家に帰って録音を参考に一週間練習して次週のレッスンで前回やった曲を1人ずつ弾いて、悪いところがあれば正されるというパターンでした。

アイルランド音楽のグレードテスト

レッスンが進むにつれ上手な子にはコンクールに出る話も出てきます。

 

レッスンの進歩の度合いを測ることを目的としたアイリッシュミュージックのためのグレードテスト「SCT Exam」もあって、これを受験する生徒も多かったです。

グレードテストはCCE(アイルランド音楽家協会)の主催で行われています。

テストは12段階に分かれていて、どのグレードを受けるかは生徒が自由に決めます。

私も習っていく中で自分のレベルはどの程度のものか気になったので、1タームの終わりにテストを受けてみました。

私が受けたのは「Senior Cycle(シニアサイクル) 1」という上から4番目グレードでした。

 

試験の内容は割と多岐にわたっているのですが、普通に教室に通っていれば嫌でも習うことなので、日々の練習をちゃんとやっていれば誰でも合格できる試験です。

試験に合格すると合格証と試験官による評がもらえます。

SCT Examのシラバスと合格証と試験官による評
SCT Examのシラバスと合格証と試験官による評

試験に受かったからどうなるというものでもないのですが、合格証を手にすると達成感もあり、それなりに嬉しいものです。

グレードテストは伝統音楽を画一化させてしまうと批判する人達もいるそうですが、私的には習っていく中で何か目標になるものがあった方が練習の励みになりますし、シニアサイクルでは筆記課題があり戦前の演奏家や、自分の専門外の楽器の奏者についての知識も求められるので、私的にはこの試験のおかげでアイルランド音楽についての知識が随分と深まってよかったと思っています。

グレードテストの筆記課題のテーマとして揚げられている演奏家のリスト。私はこのリストを参考に古い世代の演奏家のCDを聞き漁りました。
グレードテストの筆記課題のテーマとして揚げられている演奏家のリスト。私はこのリストを参考に古い世代の演奏家のCDを聞き漁りました。

アイリッシュミュージックのコンクール(フラーコンペティション)

アイルランドの伝統音楽の演奏に"正解"はないのですが、それでもこの音楽を学んでいると「自分の現在位置」が気になってきます。

グレードテストである程度は「現在地」を知ることができますが、グレードテストは「出来なければいけないこと」が出来ているかどうかを見極めるものであって、「基本的なことの更に先」を知ることは出来ません。

「更の先」を知るための一つ手段は、コンペティション(コンクール)への参加です。

コンペティションに対しての批判はアイリッシュ音楽でもつきものですが、コンペティションに参加することで自分の演奏を客観的に見ることができますし、技術の向上や、モチベーションの維持に繋がるので、私的にはコンペティションへの参加は色々な意味で良い経験になると思います。

私はグレードテストを受けた後に、自分の演奏レベルはアイルランド音楽全体の中ではどの程度のものなのかを客観的に知りたいと思い、コンペティションに参加してみました。

アイルランド伝統音楽では幾つかのコンペティションが開催されていますが、最も規模が大きいのは「Fleadh Cheoil(フラー・キョール)」のコンペティションです。

 

春先から県予選が始まり、県大会で2位までに入ると地方大会に出場出来ます。さらに地方大会で2位までに入ると夏の全国大会「オールアイルランドフラー」に出場できます。

 

予選大会はアメリカ、イギリスなどアイルランド以外での国でも行われています。

 

「オールアイルランドフラー」の18歳以上の部門を制した演奏家には、アイルランド伝統音楽の奏者にとってもっとも名誉となる「オール・アイルランド・チャンピオン」の称号が与えられます。

 

私のお隣さんのヴィンセント・グリフィンやマーティン・ヘイズ、メアリー・マクナマラもオールアイルランド優勝の経験があります。

コンペティションで演奏する曲に課題曲というのはなく、演奏する曲は自分で決めることになっています。

 

18歳以上の部門では各楽器とも4曲を演奏します。

 

4曲は全て異なるタイプの曲でなくてはいけなく、必ずスローエアを1曲含めることがルールとなっています。

 

各曲とも2回繰り返して演奏する決まりになっていて、2回以上繰り返して演奏することは出来ません。

 

また、他の曲と繋げて演奏することは許されていません。

 

このことから、コンペティションではパート数の多い曲が好んで演奏されます。

 

2パートの曲と5パートの曲では演奏出来る時間が倍以上違うので、審査員に与える印象も大分変わってきます。

 

アイリッシュフィドルの神様とも言えるマイケル・コールマンが録音した、Lord Gordon's(5パートのReel)やOld Gray Goose(6パートのJig)などを弾く人も居ますが、この手の"クラシック・チューン"は「もう出尽くした感」もあるようで、私の出たコンペティションではパディー・オブライエンやエド・リーヴィーなど1950年代以降の「近代作曲家」達が作曲したやや複雑なチューンを弾く人が多かったです。

私はそもそも良い成績を残すというよりも、アイルランドの「公的な音楽行事」で自分の演奏の客観的な評価を知りたいと思ったのがフラーに参加した目的だったので、グレードテストの時に弾いたレパートリーをそのままコンペティションでも弾きました。

私が出た年のMunsterフラーはウォーターフォードのリズモアで開催されました。オールアイルランドは同一都市で連続開催されることがありますが、県と地方大会はほとんどの場合で持ち回り開催となっています。
私が出た年のMunsterフラーはウォーターフォードのリズモアで開催されました。オールアイルランドは同一都市で連続開催されることがありますが、県と地方大会はほとんどの場合で持ち回り開催となっています。

世界中から演奏家の集うコンペティションといっても、18歳以上の大人の部門となると実際の所は県予選レベルだと各楽器とも3~4人の出場者がいれば良い方です。

 

楽器によってはまったく参加者がないこともあります。(ハープやハーモニカなど)

 

12歳以下の部門や15歳以下の部門には多くの参加者があり、県予選でも大人顔負けの演奏する子たちが大勢出場します。

町の小学校の校舎がコンペティションの会場でした。
町の小学校の校舎がコンペティションの会場でした。

私が出た年の県大会のフィドル部門は2人以下の参加者しかなく、何もしなくても次に進める拍子抜けしたものでしたが、一応演奏はして審査員からの評を頂いて帰ってきました。

 

初の公式大会(?)で頂いた評だったので、なんとなく伝統音楽奏者としての登竜門をくぐったような感じがして嬉しかったです。

Munsterフラーのフィドル部門の会場。アイルランド語でフィドルは「fidil」と綴るのですが、フラーコンペティションでは「veidhlin」と綴るのが慣しとなっています。"veidhlin"とはアイルランド語でバイオリンの意です。
Munsterフラーのフィドル部門の会場。アイルランド語でフィドルは「fidil」と綴るのですが、フラーコンペティションでは「veidhlin」と綴るのが慣しとなっています。"veidhlin"とはアイルランド語でバイオリンの意です。

無条件に県予選を通過しマンスター地方大会に臨みましたが、この大会ではそれぞれの県から2名ずつの参加があり、12人で全国大会への切符を競うことになりました。

 

ちなみにマンスター地方はクレア(Clare)、コーク(Cork),ケリー(Kerry)、リムリック(Limerick)、ティぺラリー(Tipperary)、ウォーターフォード(Waterford)の6つの県から成ります。

 

アイルランドには南北合わせて32の県があり、Connacht、Leinster、Munster、Ulsterの4つの地方に分かれています。

自分としてはそれなりにベストを尽くしたつもりでしたが、12人の中の2位に入るのは難しく、私のコンペティション挑戦は地方大会にてあえなく敗退。

 

審査員評はもらいましたが、全体で何番であったのかは分かりませんでした。

 

2位までに入った子達(出場者のほとんどが高校を卒業したばかりくらいの若い子でした)の演奏はとても"シャープ"というか"キレのある"演奏をする子で、このような演奏が最近のコンペティション上位入賞者の傾向なっているようです。

 

私はマーティン・ヘイズやメアリー・マクナマラなど、ソフトなタッチの演奏が好きなので、そんな感じで弾いたのですが、"シャープ"なタッチの方が審査員へのウケは良いのかな?と思いました。

 

コンペティションで勝つために自分の好きなスタイルを捨てて、審査員へのウケが良いスタイルに鞍替えした方が良いのかどうか・・・などと、この辺を突き詰めていくと、いったい音楽とは誰のために、何のために弾くものなのかという話にまで進んでしまいそうですが、アイルランドの音楽は基本的には「正解」がないものですので、コンペティションで優勝できる演奏が「正解」で、勝てなかった演奏が「不正解」ということはないと思います。

 

私はコンペティション参加はあくまで自分への動機づけと思っているので、良い結果を望むあまり自分のスタイルを崩してしまうのはどうなのかな?と思っています。

私が出たマンスターフラーのプログラムと審査員評。メダルは県予選の優勝メダルです。
私が出たマンスターフラーのプログラムと審査員評。メダルは県予選の優勝メダルです。

コンペティションに再び参加するかどうかは分かりませんが、常に自分の演奏を良くするべく努力は今後も続けていこうと思っています。

 

アイルランドの音楽には「正解」がないだけに、なかなか妥協点を見いだせなかったりもするのですが、そこが困ったところでもあり、楽しい所でもあると感じています。

My Lesson (私のレッスンの進め方)

まだまだアイルランドの演奏家たちには及びませんが、最近日本でアイルランド音楽のレッスンをさせていただくようになりました。

現地での経験を生かし、現地で行われているのと同じようなレッスンを目標としています。

アイルランドの伝統音楽の演奏に楽譜が読める読めないはさほど重要ではありません。

 

私自身は「learn by ear」という耳で聞いて覚えるやり方で学んできましたので、楽譜はほとんど読めません。

なので私のレッスンをさせていただく際には五線譜はまず使いません。

 

生徒さんには見よう見まね、聞きよう聞きまねで覚えていってもらっています。

 

視覚的に記憶を補助するものとしてアイルランドでもよく用いられている「ABC譜」というアルファベットで書かれた譜面を使うことはあります。

 

また最近では「ABC譜」から「五線譜」へと変換してくれるインターネットサイトなどがありますので、どうしても五線譜が必要という生徒さんには、そのようなサイトで五線譜に変換したものを配らせていただいています。

アイルランドではこのようなアルファベット表記の楽譜がよく用いられています。こちらはエニスの楽器、楽譜、CDを取り扱う「カスティーズ」が出しているオリジナル楽譜です。
アイルランドではこのようなアルファベット表記の楽譜がよく用いられています。こちらはエニスの楽器、楽譜、CDを取り扱う「カスティーズ」が出しているオリジナル楽譜です。

最初は基本的なことから

アイルランドのパブセッションに行くと、次から次へと色々なチューンが飛び交い、恐らく一晩だけでも百を超える数の曲が演奏されるのではないでしょうか。

 

セッションで弾くことを目標にしていると、とかく曲の数を追ってしまい、楽器を弾く基本、音楽を全般を学ぶ基本を忘れがちになってしまいます。

 

私が習った先生達はセッションで弾ける弾けない、曲を何曲知っている知っていないということは、それほど重要視していませんでした。

 

私のレッスンでもまずは基本に重点に置いて、1曲、1曲を丁寧に弾けるようになることを目標にしています。

---続く---