アイリッシュテナーバンジョーの演奏の参考

楽器について

アイリッシュテナーバンジョーの各部位の名称
楽器の各部位の名称です

写真の楽器は17フレットのショートスケールモデルですが、アイリッシュテナーバンジョーといっても基本的に楽器自体は普通のテナーバンジョーと同じものが用いられます。

この写真のバンジョーもそうですが、アイリッシュ音楽ではヘッド(太鼓の部分)がアーチトップになっているものが好まれて使われている傾向があります。

 

アイルランドのバンジョー製作家、トム・カッセンデイブ・ボイルの作るバンジョーはアーチトップが標準となっています。

またアイリッシュ音楽で使われるバンジョーのヘッドは表面がつるっとしたものの方が一般的です。

アーチトップ&フラットトップ
左がアーチトップで、右がフラットトップ。アーチトップはヘッド(太鼓の部分)に膨らみがあるのに対し、フラットトップはまったく平面となっています。
アイリッシュでは表面にざらつきのないつるっとしたヘッドの方がよく使われています。
アイリッシュでは表面にざらつきのないつるっとしたヘッドの方がよく使われています。

バンジョーにはテナーバンジョー以外にも様々なものがあります。

その他のバンジョーについては「色々なバンジョーのページ」をご覧ください。

楽器の購入について

バンジョー自体ギターなどと比べるとマイナーな楽器ですが、バンジョーの中でもテナーバンジョーは普通の楽器屋さんでは滅多に見ることがありません。

日本ではバンジョーというと5弦バンジョーの方が多く出回っていて、テナーバンジョーは流通量は多くはありません。

仮に見つかったとしてもディキシーランドジャズ向けに調整されたものが多く、アイリッシュ用としては不向きだったりすることがあります。

最初からアイリッシュのバンジョーの演奏を学びたいのであれば、アイルランドの楽器店や製作家から直接買うのがお勧めです。

アイルランドの「Clareen Banjo」のサイトでは、アイルランド人バンジョー製作家「トム・カッセン」が作ったバンジョーを購入することができます。

製作家自身で運営しているサイトで、製作家本人が直接楽器を送ってくれるので安心です。


楽器も豊富なラインナップがあり、初心者向けのリーズナブルなモデルもあるので、英語とネットで購入することに抵抗がなければ、このサイトから購入するのが手っ取り早いと思います。

外国からの注文にも対応していて、在庫があれば1週間程度で日本に届くそうです。

 

バンジョーはとても重たい楽器ですが、日本から購入された方の話ではちゃんと無事に届いたとのことです。

上の動画は「Clareen Banjo」でもっとも安いモデル「Clarenbridge」の紹介動画です。

調弦について

テナーバンジョーのチューニングには2種類あります。

1つは低い方の弦から「CGDA」と調弦するスタンダード・チューニングで、

もう1つが低い方から「GDAE」と調弦するアイリッシュ・チューニングです。


「CGDA」はビオラやマンドラと同じチューニング、「GDAE」はバイオリンやマンドリンと同じチューニングです。

普通テナーバンジョーといえば「CGDA」で調弦されるのが一般的です。

アイリッシュバンジョーのチューニング

アイリッシュ音楽で使われるテナーバンジョーは通常低い方から「G(ソ)、D(レ)、A(ラ)、E(ミ)」と調弦します。

ごく少数ですが「CGDA」の調弦で弾いている奏者もいます。

アイリッシュバンジョーの巨匠中の巨匠とも言えるジェリー・オコーナーはこのチューニングを使っています。

アイリッシュでよく使われる「GDAE」チューニングは、普通のテナーバンジョーよりも低く調弦されるので、弦は普通のテナーバンジョーよりも太いものを張らないと十分な張りを得ることができません。

普通のテナーバンジョー用の弦を張って「GDAE」でチューニングすると弦がデロンデロンになって、張りのある音が出せなくなってしまいます。

テナーバンジョー弦
普通のテナーバンジョー用の弦はアイリッシュのチューニングには使えません。

弦はアイリッシュ用の専用品も出ていますが、ギター用のバラ弦を組み合わせて使うこともできます。

 

私自身はダダリオのブロンズのバラ弦を使っています。

 

太さは、1弦(細い方)から、012(E)、018(A)、028(D)、038(G)と張っています。

 

1弦のみプレーンで、2、3、4弦は巻き弦です。

 

個人的に2弦はプレーンよりも巻き弦の方が好きです。

弦の材質はニッケル製のものよりもブロンズ弦を好んで使っています。

弦には端が輪になっているループエンド弦と、端に玉がついているボールエンド弦の2種類があります。

左がループエンド、右がボールエンド
左がループエンド、右がボールエンド

どちらの弦を使うのかはテールピースの作りで決まります。どちらのタイプの弦も使えるテールピースもありますが、どちらかしか使えないテールピースもあるので、使っているテールピースにあったタイプの弦を使う必要があります。

このテールピースだとループ弦、ボール弦どちらも使用できます。
このテールピースだとループ弦、ボール弦どちらも使用できます。

日本の普通の楽器屋さんだとループエンドのバラ弦を置いているところがほとんどないので、以前は入手に苦労したのですが、最近はネットで海外のサイトから簡単に購入できるようになったので、入手に困ることはなくなりました。

私自身は弦は「Strings by mail」というサイトで買っています。

アイリッシュテナーバンジョー用のセット弦はアイルランドの「Clareen Banjo」でも購入できます。

弦はダダリオのフォスファーブロンズのバラ弦(ループエンド)を使っています。
弦はダダリオのフォスファーブロンズのバラ弦(ループエンド)を使っています。

弦の押さえ方

バンジョーの指板には半音分ごとに金属製の仕切りが付いていて、この金属製の仕切りのことを「フレット」と呼び、1段(半音)ごとに「1フレット、2フレット~」と数えます。

押さえる時は、フレットのすぐ近くを押さえます。

フレット(金属製の仕切り)の上を押さえてしまったり、フレットとフレットの中間を押さえるのは良くありません。

押さえ方
押さえる時はフレット(金属の仕切り棒)寄りを押さえる

運指について

アイリッシュテナーバンジョーには二通りの運指があります。

ひとつはフレット毎に1本ずつ指を押さえる運指。(5フレット目を小指で押さえる)

もうひとつはバイオリンと同じように1音につき1本の指を使う運指です。

(5フレット目を薬指で押さえる)

運指
フレット毎に1本ずつ指を押さえる運指(4フレットを薬指、5フレットを小指で押さえる)
運指2
1音につき1本の指を使う運指(4フレットを中指、5フレットを薬指で押さえる)

両方の運指を使って「D(ニ長調)」の音階を弾くと以下のようになります。

運指3
クリックで拡大できます

五線譜の下の数字譜は「タブ譜」といって4本の線は一番下の線からG、D、A、Eと各弦を表しています。

数字は押さえるフレットで、2であれば「2フレット」、4なら「4フレット」、0は開放弦です。

指番号は1=人差し指、2=中指、3=薬指、4=小指と数えます。

テナーバンジョーをフィドル(バイオリン)と同じ運指で弾こうとすると、指を相当広げないといけないので大変です。

 

アイルランドだとフィドルと同じ運指で弾く人の方が多いのですが、手の小さい私の場合はフレット毎に1本ずつ指を置く運指を使っています。

 

ただし曲によっては、5フレットに薬指を置かないと弾けない曲もあるので、そういう場合は運指を変えて弾いています。

右手について

アイリッシュテナーバンジョーは右手にピックを持って演奏します。

いろいろな形、材質のピックが出回っていて、これがベストというものはありませんが、アイリッシュではナイロン製のものを使っている奏者が多いです。

アイルランドの楽器屋さんで買ってきた色々な形のナイロン製ピック
アイルランドの楽器屋さんで買ってきた色々な形のナイロン製ピック

上のはアイルランドの楽器屋さんで買ってきた、色々な形のナイロン製ピックです。

赤、青、黄の三枚はドイツのハーディムというメーカーのもので、アイルランドの楽器屋さんにはよく置かれています。

U2のエッジもこのメーカーのピックを使っているそうです。

赤いピックはジョン・カーティーが使っているのを見たことがあります。

青い手裏剣のようなピックはシェーマス・イーガンが使っていました。(今でも同じものを使っているかどうか分かりませんが・・)

私自身は「Jim Dunlop」というメーカーのナイロン製のものを使っています。

アイルランドのジェリー・オコーナーやキーラン・ハンラハン、メアリー・シャノン(シャロン・シャノンの妹)も同じピックを使っています。

日本の楽器屋さんにも普通に置いてあります。

Jim Dunlopのナイロン製のピック。厚さが.60mmのものを使っています。
Jim Dunlopのナイロン製のピック。厚さが.60mmのものを使っています。

ピックの持ち方も人によって色々なので、これが正しいという持ち方は存在しないと思いますが、私の場合は浅めに、親指を曲げて持つようにしています。

ピックの持ち方
こんな感じで持っています。

ピッキングの基本

ピックで弦を弾くときは、ピックが弦に直角に当たるのが基本です。

弾く位置はブリッジに近すぎず、遠すぎずといった辺りが音に張りがあって、楽に演奏できます。

ブリッジから5cmくらいが適切な位置です
ブリッジから5cmくらいが適切な位置です

ピックで弦を弾くことを「ピッキング」といいます。

ピックを上から下に向かって弾くことを「ダウンピッキング」

下から上にすくい上げるように弾くことを「アップピッキング」

と呼びます。

ダウンとアップは以下のような記号を使って表します。

フィドルは一弓で複数の音を弾くスラーを使いますが、バンジョーの場合1回のピッキングで複数の音を弾くことはしません。

アイリッシュバンジョーでは1音につき1回のピッキングで交互に弾く、「オルタネイトピッキング」が基本です。

オルタネイトピッキング

ただしジグ(6/8、9/8拍子のダンス曲)の場合は、ジグのノリを出すために3つの音の固まりの最初の音がダウンになるように弾くのが基本です。

ジグのピッキングパターン
ジグの基本的なピッキングパターン

アイリッシュバンジョーの演奏で使われる「トリプレット」について

フィドルやティンホイッスルでは「ロール」や「カット」などの装飾音を使いますが、アイリッシュバンジョーは「トリプレット」といわれる装飾音を付けながら演奏します。

アイルランドの曲集に「~」という記号がよく出てきますが、「~」はロールと呼ばれる装飾音の記号です。

フィドルやホイッスルでは「~」の記号のところは以下のように弾きます。

フィドルで使うロール「~」についてはこちらをご覧ください。

バンジョーやマンドリンでは上のようには弾けないので、上の譜面の32分音符の部分を三連符に置き換えて弾きます。

トリプレットとは基本的には単に3連符のことです。

例えば次のようなフレーズは:

バンジョーやマンドリンでは以下のように弾きます。

小さい数字は使う指を表します。3は薬指、4は小指、0は開放弦です。大きい数字は押さえるフレットです。5なら5フレット、7なら7フレットです。
小さい数字は使う指を表します。3は薬指、4は小指、0は開放弦です。大きい数字は押さえるフレットです。5なら5フレット、7なら7フレットです。

見た目は簡単そうなのですが、トリプレットの後にダウンピッキングを連続するので、実際に弾くとけっこう難しいです。

トリプレットを含むフレーズのピッキングの基本パターン (クリックで拡大できます)
トリプレットを含むフレーズのピッキングの基本パターン (クリックで拡大できます)

トリプレットの弾き方も人によってまちまちですが、私自身は手首をあまり使わずに指先だけで弾くようにしています。

力まかせに入れようとすると綺麗に入らないので、前後のフレーズをよく考えることも大事だと思います。

自分のトリプレットの入れ方

ダブリン・リール

隣の動画で弾いている曲の楽譜です。(クリックで拡大できます)

ココからPDF版がダウンロードできます。


トリプレット以外では、和音を一緒に弾いたり、グリッサンドなどを使った装飾の付け方もあります。

色々な装飾のつけ方で曲の印象が変わるので面白いと思います。

実際の演奏(左の動画)と右の楽譜を比較してご覧になると、アレンジの仕方で曲がどう変化するかのお分かりいただけるかもしれません。

Road to Garrison
クリックで拡大できます

テナーギターについて

テナーギターは4弦のギターです。

 

見た目や音色はギターそのものですが、チューニングやフレット数がテナーバンジョーとまったく同じなので、テナーバンジョーが弾ければ簡単に弾けてしまいます。


普段のテナーバンジョーの演奏をギターの音色に変えたいときなどに便利です。

アイリッシュテナーギター

テナーバンジョーで演奏している曲をテナーギターで弾くとこんな感じになります。


マンドリンについて

アイルランド音楽ではマンドリンという楽器も使われています。

 

マンドリンは弦の本数は4本(※)で、バンジョーやテナーギターと同じく低い方から「G、D、A、E(ソ、レ、ラ、ミ)と調弦します。

(※)正確には2本で1本になっているので、実際に張られている弦の本数は8本になります。

 

アイルランド音楽におけるマンドリンの演奏法は、アイリッシュテナーバンジョーとまるっきり同じです。

 

アイルランド音楽でのマンドリンは、アイルランドの伝統的なダンス曲の旋律を演奏するために用いられています。


テナーバンジョーと同様にコードをかき鳴らすような演奏はあまりしません。

ごくまれに伴奏楽器として使われる場合などに、コードをかき鳴らすこともありますが、基本的にはテナーバンジョーと同様に主旋律のみを単音で弾くことが多いです。


マンドリンというと「トレモロ」を思い浮かべる方もいるかと思いますが、アイルランド音楽でのマンドリンの演奏では「トレモロ」は滅多に使うことがありません。

 

マンドリンは弦の本数も調弦方法もテナーバンジョーと同じなので、テナーバンジョーが弾ければ自動的に弾けてしまうので、アイルランド音楽の世界でのマンドリンはテナーバンジョー奏者の持ち替え楽器としての側面が強いです。

 

アイルランド音楽の世界でマンドリンだけを専門的に演奏する奏者は非常に稀です。


アイルランドのマンドリン奏者のほとんどはテナーバンジョーかそのほかの楽器の奏者で、マンドリンはあくまで持ち替え楽器として弾いていることが多いです。

アイリッシュマンドリン

アイリッシュ音楽では一般的に「フラットマンドリン」という種類のマンドリンが用いられています。少ないですがラウンドバックのマンドリンを使っている人もいます。

テナーギター、フィドル、マンドリン、テナーバンジョー

左からテナーギター、フィドル、マンドリン、テナーバンジョー。

4台の楽器とも全て同じ弦の本数、同じ調弦方法なので、アイルランド音楽では4台のうちどれか1台が弾ければ残りの3台も自動的に弾けてしまいます。


マンドリンによるジグの演奏です。

私も一応マンドリンも持っていますが、他の楽器に比べると出番は少なめです。

フィドルへの移行について

バンジョーが弾ければフィドル(バイオリン)も弾けるようになります。

フィドルそのものについてはコチラのページをご覧ください。

・アイリッシュフィドルの基本情報(楽器や基本的な演奏法について)

バンジョーとフィドルはチューンニングが同じなので、左手の運指はどちらもまったく一緒です。

下の2つの動画ではどちらも同じ曲を、バンジョーとフィドルで弾いています。(どちらも弾いているのは私です)


バンジョーとフィドルの違いは、音の出し方が大きく異なります。

 

バンジョーはピックで弾いて音を出しますが、フィドルは弓で弦を擦って音を出します。

 

弓で音を出すのは難しいと思う方が多いのですが、アイリッシュフィドルの場合は特に決まった弓の持ち方もないので、クラシックのバイオリンに比べれば大分敷居は低いと思います。

フィドルを始めたころは、こんなふうに弓を持っていました。
フィドルを始めたころは、こんなふうに弓を持っていました。
あまりよくない持ち方なのですが、アイリッシュならこれでも弾けないことはありません。
あまりよくない持ち方なのですが、アイリッシュならこれでも弾けないことはありません。

実際にアイルランドにはバンジョーとフィドルどちらも兼ねる奏者が多くいます。

下の動画はアイルランドを代表するバンジョー奏者にしてフィドル奏者「カホル・ヘイデン」のバンジョーとフィドルの演奏です。どちらの楽器でも「オール・アイルランド・フラー※」で優勝している奏者です。

先に始めたのはバンジョーの方で、フィドルは大人になってから始めたそうです。

※アイルランドで年1回開催されているアイルランド伝統音楽の全国コンクール。


フィドルもなかなか楽しい楽器なので、バンジョーが弾けるようになったらぜひフィドルも試してみることをお勧めいたします。

お勧めのCD

お勧めのCDをこちらにリストアップしてみましたのでよかったらご覧ください。

アイリッシュバンジョーのレッスン

バンジョーやテナーギター(マンドリンも可)、フィドルのレッスンもやっています。

詳しくはこちらよりお問い合わせください。